あの日、私は部下から見放されていた
「課長、それは僕たちの仕事じゃないですか」
会議室で部下の山田に言われたその一言が、今でも耳に残っている。
私は当時35歳、念願だった課長職に昇進して3ヶ月。毎日のように「もっと効率的に」「もっと戦略的に」と指示を出し、部下たちを引っ張っているつもりだった。いや、そう信じていた。
しかし、現実は違った。
深夜11時、またオフィスに一人残った私は、パソコンの青白い光に照らされながら、部下たちが定時で帰っていく背中を思い出していた。誰も相談してこない。誰も「一緒にやりましょう」と言ってくれない。重い扉が閉まる音だけが、静かなフロアに響いていた。
「なぜ、誰もついてこないんだろう…」
心の奥底から、そんな声が聞こえてきた。スマートフォンには、妻からの「今日も遅いの?」というメッセージ。コーヒーは冷め切っていた。
私は「正しい指示」を出していた。明確な目標設定、詳細な業務フロー、週次の進捗確認ミーティング。マネジメント本に書いてあることは、ほぼ全て実践していたつもりだった。
でも、部下の目は冷たかった。
「教科書通り」では、部下の心は動かなかった
昇進直後、私は書店でリーダーシップに関する本を10冊以上買い込んだ。
- 「部下とのコミュニケーションを増やせ」→ 毎週ランチミーティングを設定した
- 「明確な指示を出せ」→ 詳細な業務マニュアルを作成した
- 「褒めて伸ばせ」→ 意識的に「よくやった」と声をかけた
しかし、3ヶ月経っても何も変わらなかった。いや、悪化していた。
ランチミーティングは形式的な報告会になり、部下たちは早く終わらせたそうにスマホをチラチラ見ていた。マニュアルは「結局、課長は現場を分かってない」という不満を生んだ。褒め言葉は「わざとらしい」と受け取られ、逆効果だった。
「何が間違っているんだ…」
そんな時、部署の大型プロジェクトで予期せぬトラブルが発生した。クライアントからのクレーム対応で、部下たちはパニック状態。私は「落ち着いて対応しろ」「まず状況を整理しろ」と指示を出した。
でも、誰も動かない。
そして、冒頭の山田の一言。
「課長、それは僕たちの仕事じゃないですか。課長は指示だけ出して、現場を見てないじゃないですか」
その瞬間、私の中で何かが崩れ落ちた。オフィスの蛍光灯が、やけに眩しく感じた。
すべてが変わった「たった1つの行動」
その夜、私は自宅で妻に全てを話した。
「もう、ダメかもしれない。課長失格だ」
妻は黙って聞いた後、こう言った。
「あなた、最近現場に行った? 部下と一緒に汗かいた?」
ハッとした。
気づけば、私は課長室から指示を出すだけで、現場に足を運んでいなかった。「管理職は戦略を考えるのが仕事」そう思い込んでいた。
翌朝、私は決意した。
「今日から、率先して動こう」
まず、誰よりも早く出社した。朝7時、まだ誰もいないオフィスで、私は共有スペースの清掃を始めた。散らかっていた書類を整理し、コーヒーメーカーを洗い、ホワイトボードを拭いた。
部下たちが出社してきた時、彼らは驚いた表情をした。
「課長…何してるんですか?」
「おはよう。ちょっと掃除してた。気持ちいいオフィスで仕事したいからね」
そして、例のクレーム対応。
私は部下たちに「一緒にやろう」と声をかけ、自らクライアントに謝罪の電話をかけた。現場に足を運び、油まみれになりながら製品の不具合を確認した。深夜まで、部下と肩を並べて原因分析と報告書作成に取り組んだ。
指示を出すのではなく、一緒に汗を流した。
部下の目が、変わり始めた
それから2週間後、変化が起きた。
朝、オフィスに入ると、山田がすでに清掃をしていた。
「課長、おはようございます。今日は僕が先にやっておきました」
彼は少し照れくさそうに笑った。
会議でも、部下たちが積極的に意見を出すようになった。「課長、こうしたらどうでしょう」「この部分、僕がやります」そんな言葉が、自然と飛び交うようになった。
そして3ヶ月後、部署の生産性は前年比120%に向上。離職率はゼロ。何より、オフィスに笑顔が溢れるようになった。
私は何も特別なことをしていない。ただ、率先して動いただけだ。
部下たちは私の「言葉」ではなく、「行動」を見ていた。指示を出すだけのリーダーではなく、共に汗を流す仲間を求めていたのだ。
なぜ「率先行動」だけが、部下の心を動かすのか?
あの失敗から学んだことがある。
1. 部下は上司の「言葉」ではなく「背中」を見ている
どんなに素晴らしいビジョンを語っても、行動が伴わなければ部下は信じない。私が現場で汗を流す姿を見せた時、初めて部下たちは「この人についていこう」と思ってくれたのだ。
2. 「一緒に戦う仲間」だという一体感が生まれる
上司が率先して困難な業務に取り組む姿は、部下に「自分だけが頑張っているわけじゃない」という安心感を与える。チーム全体に「皆で乗り越えよう」という一体感が生まれる。
3. 失敗を恐れない文化が育つ
上司が率先して挑戦し、時には失敗する姿を見せることで、部下も「失敗してもいいんだ」と安心して挑戦できるようになる。これが、チーム全体の成長を加速させる。
あなたも明日から変われる:具体的な5つのステップ
私の経験から、誰でも今日から実践できる「率先行動」をご紹介します。
ステップ1: 朝一番の小さな行動から始める
- 誰よりも早く出社し、共有スペースを整える
- コーヒーメーカーの準備をする
- 窓を開けて、空気を入れ替える
これは単なる掃除ではありません。「チームのために環境を整える」というメッセージです。
ステップ2: 誰もやりたがらない業務に手を挙げる
- クレーム対応
- データ入力
- 議事録作成
「これは私がやります」という一言が、部下の心理的負担を大きく軽減します。
ステップ3: 部下と共に「現場」で汗を流す
- 納期前の追い込み時に、一緒に残業する
- 現場作業があれば、作業着を着て参加する
- 部下の困り事を、一緒に解決策を探す
「共に戦う仲間」だという意識が、強固な信頼関係を築きます。

ステップ4: 失敗を恐れず、挑戦する姿を見せる
- 新しいツールを誰よりも先に試す
- 過去の失敗談をオープンに共有する
- 「失敗したら私が責任を取る」と明言する
ステップ5: 行動の「意図」を言葉で伝える
- 「この作業を手伝うのは、君には今、お客様対応に集中してほしいから」
- 「このシステム、まず私が試してみる。みんながスムーズに使えるようにしたいんだ」
行動の背景にある「思い」を伝えることで、効果は何倍にもなります。
率先行動がもたらす「3つの劇的な変化」
私の経験上、率先行動を継続すると、以下の変化が起こります。(効果には個人差があります)
変化1: 部下が自律的に動き始める
指示待ちだった部下が、自ら課題を見つけ、解決策を提案するようになります。会議での発言も活発になり、チーム全体の創造性が高まります。
変化2: チームに強い一体感が生まれる
困難な課題にも、互いに助け合い、協力し合う文化が育ちます。「自分だけが頑張っている」という孤独感が消え、「皆で成し遂げる」という連帯感が芽生えます。
変化3: あなた自身のリーダーシップが確立する
部下からの信頼は、あなたの自信となります。「肩書き」ではなく「人間性」で部下を動かせるようになり、真のリーダーへと成長します。
よくある不安にお答えします
Q1: 忙しくて時間がないのですが?
A: 1日10分から始めてください。朝の清掃、会議後の片付け、部下への「何か手伝おうか?」という一言。小さな積み重ねが、大きな変化を生みます。
Q2: 上司が現場作業をすると、軽く見られませんか?
A: あなたの「意図」を明確に伝えることが重要です。「チームのため」「部下の成長のため」という思いを言葉にすれば、決して軽んじられることはありません。
Q3: 失敗が怖いです
A: 私も何度も失敗しました。でも、失敗から学ぶ姿勢こそが、部下に勇気を与えます。完璧な上司ではなく、誠実に努力する上司を、部下は求めています。
まとめ:あなたの小さな一歩が、未来を変える
私は「指示ばかりで部下から信頼されない上司」でした。
しかし、たった1つの行動―率先して動くこと―で、全てが変わりました。
部下の目が輝き、チームに笑顔が溢れ、私自身もリーダーとしての喜びを感じられるようになりました。
あなたも、明日から変われます。
まずは、朝一番にオフィスの窓を開けることから。誰もやりたがらない業務に「私がやります」と手を挙げることから。
その小さな一歩が、部下からの尊敬という大きな実りへと繋がっていきます。
あなたのリーダーシップが、チームの未来を照らしますように。
